(目的)
この賠償基準は、クリーニング業者がお客様から預かった洗たく物の処理または受取および引渡しの業務の遂行にあたり、職務上相当な注意を怠ったことに基づき法律上の損害賠償責任を負うべき場合に、大量のクレームを定型的に処理するための合理的基準を設定し、これにより公平かつ効率的にトラブルを解決するとともに、利用者の簡易迅速な救済を図ることを目的とする。
(定義)
この賠償基準において使用する用語は、つぎの定義にしたがうものとする。
⑴「クリーニング業者」とは、利用者とクリーニング契約(寄託契約と請負契約の混 合契約)を結んだ当事者をいう。
⑵ 「賠償額」 とは、利用者が洗たく物の紛失や損傷により直接に受けた損害に対する賠償金をいう。
⑶ 「物品の再取得価格」 とは、損害が発生した物品と同一の品質の新規の物品を事故発生時に購入するのに必要な金額をいう。
⑷ 「平均使用年数」 とは一般消費者が物品を購入したその時からその着用をやめる時までの平均的な期間をいう。
⑸ 「補償割合」 とは、洗たく物についての利用者の使用期間、使用頻度、保管状況、いたみ具合等による物品の価値の低下を考慮して、賠償額を調整するための基準であって、物品の再取得価格に対するパーセンテージをもって表示された割合をいう。
「賠償額」 について…
イ 洗たく物の紛失や損傷に伴う事故のうち、一般的に損害賠償の対象となるのは、その洗たく物自体に生じた損害であることが明らかになった場合です。
ロ 賠償額の算定に関連して、クリーニング代金の扱いが問題となり得ますが、事故の原因がクリーニング業務にあるときは、クリーニング業者は、クリーニング代金の請求を放棄することとなります。
「物品の再取得価格」 とは…
イ 「購入するのに必要な金額」 とは、事故が発生した時のその物品の標準的な小売価格をいいます。ただし、例えば、時期遅れのためバーゲン品として売り出された物品や リサイクルショップ等で古着として購入した物品のように、事故発生時の標準的な小売価格と著しく異なる場合で、クリーニング業者または利用者が購入価格を明らかに した時は、購入価格を基準として再取得価格を定めます。
ロ 物品購入時の価格が判らず、なおかつ事故発生時に物品が販売されていないため、再取得価格が不明な場合は、本基準第5条が適用されます。
「平均使用年数」 とは…
イ 衣類などの使用開始から、その使用をやめるまでの平均的な期間をいいます。たとえば、衣服などの使用をやめる理由としては、流行遅れ、着飽きた、似合わなくなっ た、サイズが合わなくなったなどの理由も含まれているので、平均使用年数は単なる物理的に使用不能になるまでの期間(いわゆる耐用年数)とは異なります。
ロ ただし、素材等の特性により耐用年数に限界が認められるものについては、品目に関わらず平均使用年数を設定しています(別表 1「商品別平均使用年数表」No.1 ~ 5 参照)。
「説明義務」は膨大な洗たく物すべてに掛かるものではありません。クリーニング業法並びに本基準が求めているのはあくまでも《クリーニング事故防止=利用者利益の擁護》です。 日常的に扱うワイシャツ 1 点 1 点にまで説明義務は及ぶものではないと解釈されます。
(クリーニング業者の責任)
1 洗たく物について事故が発生した場合は、クリーニング業者が被害を受けた利用者に対して賠償する。ただし、クリーニング業者が、その職務の遂行において相当の注意を 怠らなかったこと、および利用者またはその他の第三者の過失により事故の全部または一部が発生したことを証明したときは、その証明の限度において本基準による賠償額 の支払いを免れる。
2 クリーニング業者は、利用者以外のその他の第三者の過失により事故の全部または一部が発生したことを証明したときは、その他の第三者により利用者への賠償が迅速かつ確実に行われるよう、利用者を最大限支援しなければならない。
第1項について
⑴ クリーニング業者の賠償責任は、第 1 条およびこれに関連する運用マニュアル中の解説に示されている『職務上相当な注意を怠ったこと』を理由とする過失責任で す。いわゆる無過失責任ではありません(本条ただし書により、十分な証明を行うことによって、クリーニング業者も賠償責任を免れることができます)。
もっとも、洗たく物について事故が発生した場合には、専門家としてのクリーニング業者 に比し利用者の知識・情報が著しく劣っていることから、利用者の救済を促進するため、 証明がなされるまでは一応クリーニング業者に過失が存在し、その過失と損傷との間に因果関係が存在するものと推定することにしました(過失の推定)。
⑵ ただし書に基づくクリーニング業者の『証明』に利用者が納得しない場合は、利用者およびクリーニング業者は、第三者機関の鑑定を求めることができます。なお調査 費(=鑑定料等)については、最終的には過失の割合に応じて該当者が負担することが望まれます。
⑶ クリーニング業者が証明するために必要な相当の期間が経過するまでは、本条による賠償の履行期は到来しないものとします。
⑷ どのような場合でも、クリーニング業者が自らの賠償責任を免れるためには、まず、自身が職務上相当な注意を怠らなかったことを証明しなければなりません。
(5)衣料品には、クリーニングの利用者自身の扱いが原因で事故が発生することも予想されます。この場合には、当然に過失相殺が適用されますので、クリーニング業者の賠償金額は利用者の過失の割合に応じて減免されます。事故の一部についての利用者の過失については、迅速な賠償を行うために、その過失割合を3割または5割とします。
もっとも、クリーニング業者が、利用者がいつどこでどのように衣料品を損傷させたかというような個別的・具体的事情を正確に証明するのはほとんど不可能です。したがって、『利用者の過失により事故の全部または一部が発生したこと』の証明は、当該事故の原因が通常は利用者の衣料品の使用方法等にあると合理的に推測できるような客観的・一般的な事情を証明することで足ります。
⑹衣料品の素材や加工技術等が奇抜化するとそれに反比例する形で衣料品の耐クリーニング性が低下し、事故が発生しやすくなります。また、衣料品の販売までの間の展示・保管等の不適切な処理によって、事故が発生することもあります。その場合に賠償責任を負担するのは、衣料品メーカーや衣料品販売店等、クリーニング業者の支配の及ばない「その他の第三者」です。
このようなその他の第三者の過失をクリーニング業者に立証させるのは、利用者と比べて、クリーニング業者が衣料品の素材・製造過程やその流通過程について豊富な知見・情報を有しているからです。本条ただし書の立証責任の転換によって、利用者は、クリーニング業者以外のその他の第三者の責任を追及すべき場合にも、立証の負担をクリーニング業者に転嫁することができます。この点でも、本条は利用者保護の立場を徹底しています。
⑺ クリーニング業者自身にも事故の一部について過失があるときは、その他の第三者との過 失の割合について争いが生じると、利用者への迅速な賠償が妨げられるおそれがあります。クリーニング業者とその他の第三者の両者に過失がある場合は、原則として、賠償額(利用者の過失がある場合には過失相殺を行った後の額)を5割ずつ賠償するものとします。
第2項について
クリーニング業者自身に事故の一部について過失があり、その他の第三者に残りの部分の責任がある場合、その第三者が倒産するなどクリーニング業者との話し合いが事実上できない状況にあるときは、クリーニング業者は、自身の負担部分についてのみ賠償をすれば足ります。
(賠償額の算定に関する基本方式)
賠償額は、つぎの方式によりこれを算定する。ただし、利用者とクリーニング業者との間に賠償額につき特約が結ばれたときは、その特約により賠償額を定める。
賠償額 = 物品の再取得価格 × 物品の購入時からの経過月数に対応して別表に定める補償割合
⑴ この規定は、事故を起こした洗たく物が着用することができない状態(全損またはみなし全 損)にあって、クリーニング業者がその品物を引き取る場合の賠償額を定めるものです。事 故の程度が軽く、利用者が品物を引き取り、引き続き使用するものの品物の価値が減じている場合は、部分損としてその割合に応じて賠償することとなります。
⑵ 賠償額算定の特例
イ) 背広上下など、2点以上を一対としなければ着用が困難な品物については、片方(一部)に事故が生じた場合でもその全体に対して賠償しなければなりません。ただし、利用者が一対のもののうち1点だけをクリーニングに出し、かつクリーニング業者が一対のものの一部であることを知らされていない場合は、クリーニングに出された一部のみの賠償でよいとされています。
なお、このケースで、一対の全体の価格がわかっているものの1点ごとの価格が不明の場合、下記の比率を目安とします。
○ツーピース 上衣 60% ズボン(スカート)40%
○スリーピース 上衣 55% ズボン(スカート)35% ベスト 10%
ロ) 物品購入時の価格がわかっていても、事故発生時に物品が販売されていないため、事故発生時の標準的な小売価格が不明のときは、「購入時の価格×消費者物価指数(次頁表参照)」の算式で算出します。
⑶該当品の製造元が既に存在しない等の事由で確認できず、かつ客も領収書等の控えがなく、販売(購入)価格が判明しない場合は、本基準第5条を準用します。
⑷特約を結ぶことが望ましい例…
イ かたみの品、記念品などの主観的価値の高い品物
ロ ビンテージ物、骨とう品など、希少的価値の高い品物
ハ 海外での購入品などの代替性のない品物
ニ 取扱い表示、縫い付けタグ等がない品物、切り取られている品物
⑸経過年数とは…
物品の購入日(贈与品の場合は贈り主の購入日)から、クリーニング業者がクリーニング
を引き受けた日までの月数をいいます。この間、着用しないで保管していた期間も含まれます。
(賠償額の減縮)
第3条の規定に関わらず、以下の各号については賠償額を減縮することができる。
⑴クリーニング業者が賠償金の支払いと同時に利用者の求めにより事故物品を利用者に引き渡すときは、賠償額の一部をカットすることができる。
⑵クリーニング業者が洗たく物を受け取った日より 90 日を過ぎても洗たく物を利用 者が受け取らず、かつ、これについて利用者の側に責任があるときは、クリーニン グ業者は受け取りの遅延によって生じた損害についてはその賠償責任を免れる。
⑴ クリーニング業者が洗たく物の価値の全額を賠償した場合、事故品の所有権はクリーニング業者に移ります。賠償金を受け取った利用者が、その事故品の返還を希望する場合は、両者合意の金額に賠償額を減額することができます。
⑵ 「受け取りの遅延によって生じた損害」 とは
利用者が品物を引き取りに来ない間に、クリーニング業者の責任でない理由で損害が発生した場合を指します。具体的には次のようなケースが該当します。
イ 受け取りが遅延している間にクリーニング店が類焼(自家以外からのもらい火)した場合の損害
ロ 受け取りが遅延している間に生じた変退色・虫食い
(基準賠償額支払い義務の解除)
1 利用者が洗たく物を受け取るに際して洗たく物に事故がないことを確認し異議なくこれを受け取ったことを証する書面をクリーニング業者に交付した時はクリーニング業者は本基準による賠償額の支払いを免れる。
2 利用者が洗たく物を受け取った後6ヶ月を経過したときは、クリーニング業者は本基準による賠償額の支払いを免れる。
3 クリーニング業者が洗たく物を受け取った日から1年を経過したときは、クリーニング業者は本基準による賠償額の支払いを免れる。ただし、この場合には、次の日数を加算する。
⑴その洗たく物のクリーニングのために必要な期間をこえて仕事が完成した場合には、その超過した日数。
⑵特約による保管サービスを行った場合には、その保管日数。
⑶その洗たく物のクリーニングのために必要な期間をこえて仕事が完成したのち、継続して特約による保管サービスを行った場合には、超過日数と保管日数を合算した日数。
4 地震、豪雨災害等、クリーニング業者の責めに帰すことのできない大規模自然災害により、預かり品が滅失 ・ 損傷し、洗たく物を利用者に返すことができなくなったときは、民法の規定に基づき、クリーニング業者は預かり品の損害の賠償を免れる。
⑴ 第1項は、第2条の2第2項で規定されている相互確認を行っていたとしても、それだけでは後日クレームが発生しても賠償責任は免れず、利用者が確認書にサインすることが必要であるとしています。
⑵ 第2項では、利用者が品物を受け取った日から半年以上経過して苦情を申し入れた場合、クリーニング業者は賠償の責任がないとしています。現実的には半年以上経過した後に持ち込まれた苦情に対しても賠償する事例が多数見受けられますが、第2条の2に規定されている説明責任を果たし本基準に基づき賠償する旨を事前に伝えていれば、本項に基づき賠償義務は解除されます。
⑶ クリーニング業者が洗たく物を受け取った日から1年を経過したものはクリーニング業者は賠償責任を免れますが、これに利用者の責任外の日数や特約による保管期間等があった場合は、利用者が不利益を被らないよう、該当日数が加算されます。
⑷ 第2項の「6ヶ月」、第3項の「1年」という日数について、いずれも長すぎるという声がある一方、妥当だとする意見も同等にあります。本基準第2条の2第2項で規定する相互確認を行い、本条第1項に規定する書面を交付することで期間の制約は解除されますので、可能な限り実行することが望まれます。
⑸ 一方で、利用者の多くが受け取った洗たく物の検品をせず、ポリ包装がかかったままの状態で次の着用時まで放置しているケースが大多数を占めています。このため、「6ヶ月」という規定となっています。受け渡し時に、収納前の検品や包装材の取り外しについて、クリーニング業者はしっかりと説明することが求められます。
⑹ 地震や豪雨災害等、クリーニング業者の責めに帰すことのできない大規模自然災害によって 預かっている洗たく物が滅失・損傷した場合、民法の規定に基づきクリーニング業者はその賠償責任は免れます。ただし、クリーニング業者が災害保険等に加入しており、滅失 ・ 損傷 した洗たく物について補償を得ているときは、利用者はその代償の譲渡を請求することができます。
⑺ 大規模自然災害による洗たく物の滅失・損傷の際のクリーニング料金の取り扱いについて
イ 通常の場合、クリーニング業者は洗たく物の返還債務を免れますが、この際反対給付(クリーニング料金)を受ける権利は失います。既に料金を受領しているときは、返還しなければなりません。
ロ 引き取りを催告したにもかかわらず利用者が受け取りに来なかった洗たく物が滅失 ・ 損傷した場合
クリーニング業者は、預かり品が滅失した場合は債務の履行義務を免れ、損傷した場合は、損傷した物を返還すればよいとされます。一方、利用者はこの場合であっても、クリーニング料金を支払う必要があります。